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夢枕獏の文体のガイドライン

1 :水先案名無い人:2005/06/08(水) 23:51:04 ID:HdWJfha90
すぐにスレを立てた。
拳。
拳。
肘。
足。
肘。
踵。
指。
拳。
みごとな攻撃であった。

関連スレ
夢枕獏×板垣恵介【餓狼伝】23 板垣シェーダ
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/comic/1115364612/l50
【放置プレイ】夢枕獏 巻之五【続行中】
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1106812422/l50

562 :水先案名無い人:2005/07/16(土) 18:46:28 ID:O+D/afou0
さっちゃんはよう――さちこって言うんだよ。こいつは本当の話だ。」
「――それで?」
まるで興味がなさそうに男は問い返した。
乾いた声であった。
「だけどなあ、ちっちぇえんだよ。さっちゃんは。」
「それで――?」
「馬ぁ鹿。だから手前のことをさっちゃんって呼ぶのさ――」
「――ぬう。」
「どうでえ。可愛いだろう。さっちゃんはよ――」
「――少しはね。」
言葉とは裏腹に、男の顔は上気していた。
周囲の気温が、二、三度上昇したようであった。

「だがな。それだけじゃあねえ。さっちゃんってえのはそれだけじゃあねえんだ。」
「――何。」
まだ、何かあるというのか―――
自分のことを、名前で呼べない。
さちこではなく、さっちゃんと呼ぶ。
それ以上の何かが、さちこにはあるのか。
知りたい。
さちこについて、もっと知りたい。


563 :水先案名無い人:2005/07/16(土) 18:49:01 ID:O+D/afou0
抑えきれない感情が、肺腑から溢れ出し、気道を抜けて大気へと迸った。
「――教えてくれ。さっちゃんが一体どうしたというのだ。」
「さっちゃんはなあ。大好きなんだよ、バナナが、さ――」
バナナが好き?
それは良いことではないのか?
小さな女の子にとって、好きな食べ物があるのはこの上のない幸せだろう――
俺も小さいころは、寺の裏にある山のこけももの実を、腹がはち切れそうになるまでもいでは食っていたものだ。
あれはうまかった。
山に降り注いだ雨の露。
天から注ぐ、甘露。
そんな味だった。
病床の妹にも二つ三つ持って帰ってやった。
氷砂糖と一緒に焼酎につけておけば、親父は、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。
思えば、あの頃が一番楽しかった―――
男の表情にさみしげな、やりきれないようなものが浮かんだ。
「――続けろ。いや、続けてくれ。」
「慌てるない――。考えてもみな。さっちゃんはな、さっきも言った通り小せえんだぜ――」


564 :水先案名無い人:2005/07/16(土) 18:53:17 ID:O+D/afou0
小さい。
さちこは小さい。
この言葉を聴いた瞬間、男の脊髄にこわいものが走った。
まさか――
いやまさか――
そんなはずはない。
そんなはずがある訳がない。
いや、あってはならないのだ――
「小さいから――小さいからどうしたというんだ。」
「分からねえのかい。いや、分かってるって顔だな。それは。」
「言うな。それ以上は言うな――」
「聞きたがったのはあんたさ。あのな。さっちゃんはな、小せえから――」
「よせ――」


565 :水先案名無い人:2005/07/16(土) 18:56:57 ID:O+D/afou0
男の声は小さかった。
審判を待つ罪人のような声であった。
顔を、背けた。
せめてもの抵抗のつもりだった。
「小せえからよう――バナナが、バナナが半分しか、食べられないのさ。」
堪らなかった。
男としてあり続ける為、己を縛ってきた鎖―――
脊髄の、自律神経の束の中で、幾本かが、ぶつりと鈍い音を立てて切れるのを感じた。
顔に、一滴の水が触れた。
雨――?
いや違う。
これは、涙だ。
感情の昂ぶりに因って、涙腺から搾り出される体液。
そいつの事を涙というのだ。
俺は泣いているのだ。
涙を流しているのだ。
そうだ。
もう泣いていいんだ。
吼えた。
獣の、哭き声であった。

「――かわいそうな女さ、さちこって奴はよ――」
風が、吹いた。
くすぐったい様な、桜の香りが混じっていた。
もう春は、そこまで来ていた。


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